紙とイラストの祭典「紙博」。イラストレーター、デザイナー、文具メーカーなど、素晴らしい紙ものを手がける作り手が全国各地から集合いたします。そんな作り手たちの素顔に、私たち紙博事務局が迫りました! 活動を始めたきっかけから、これから挑戦したいことまで……ここでしか聞けないエピソードが満載です。読めばきっと、次に紙博の会場で会えるのがもっと楽しみになりますよ。
記念すべき第1回に登場するのは、日常の“どうでもいいこと”を描くイラストレーター・ナガキパーマさん。身の周りにいそうでいないユーモラスなキャラクターを生み出しています。2023年から紙博に出展し、愛らしい紙ものの数々で多くの人を虜にしてきました。

一般企業への内定から一転、イラストレーターの道へ
ー幼少期はどんなお子さんでしたか?
物心ついた頃からひとりで黙々と絵を描いているような子どもでした。5歳になる頃にはオリジナルのキャラクターを作ったり、そのキャラクターが登場するシリーズ漫画を描いたりしていて…….。その頃に出会ったのが、兄が読んでいた漫画雑誌に連載されていた『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(集英社)です。当時は“こち亀”の影響もあったのか、ラストシーンでみんなが夕日に向かって歩くような、起承転結を意識したほのぼの系の漫画を描いていました。
ーそこから、どのようにイラストレーター・ナガキパーマが誕生したのでしょうか?
高校では、バスケ部のマネージャーと兼部しながら美術部としてもゆるく活動していたんですが、卒業後は絵を描くことから離れて、文系の4年制大学に進学しました。一般企業への就職も決まって卒業を目前に控えた頃、イラストレーターやクリエイターが参加する大きな販売イベントに遊びに行ったんですよね。それをきっかけに自分も何かを作って販売してみたいと思って、近所で開催されていた小規模のハンドメイド市に参加したのが初めてのイベント出展です。


ーそこから現在の活動まで繋がっていくんですね。
ハンドメイド市に何度か出展するうちに、イベントを主催している会社の社長夫人に声をかけていただけるようになって、後日会社を訪ねたんです。そうしたら「良かったらうちで働かないか」と。「平日はイベント会社の営業として働いて、土日に作家活動をすれば良い。学んだものを会社に持って帰ってきて欲しい」とおっしゃられたんです。副業もOKだったんですよね。ただ、すでに他の企業から内定を貰っていたので、その企業の人事の方に事情を話しました。すると「そんなチャンスは人生で何度もないから、乗っかった方が良いですよ」と後押ししてくださったんです。そんな流れで入社を決めました。
ー初めてイベントに行ってから、1ヶ月半ほどで状況が大きく変わりましたね! 相当お忙しかったんじゃないでしょうか?
イラストを描いてグッズを作ってイベントに出て……「オンライン販売してほしい!」というお声もいただいていたので、だんだんと作家活動の方が忙しくなりました。結局その会社に在籍したのは8ヶ月くらいで、その後はフリーの作家として活動しています。
ーところで、「ナガキパーマ」という作家名の由来は何ですか?
祖母が「ナガキ美容院」という小さなパーマ屋さんを営んでいて、そのお店の名前がヒントになりました。地元では昔から“ナガキパーマさんのところのお孫さん”と呼ばれていたので、聞き慣れた名前が良いなと思ったんです。あとはその頃、空前のハンドメイドブームが来ていて……英字表記のクリエイター名の方が多かったので、一覧になった時にパッと目に入りやすいカタカナ表記にしようと考えました。初見の方だと「ナガキ」の部分が覚え辛いらしく、「イナガキパーマさん」とか「ナガサキパーマさん」って呼ばれることもあります(笑)

ー惜しい! 「ナガキパーマ」というキャッチーなお名前はそんな風に生まれたんですね。
靴下にベッドを占領された活動初期
ーナガキパーマとして最初に作った商品は何ですか?
実は、初めの頃は本名で活動していて、ナガキパーマを名乗りはじめたのは少し経ってからなんですが……作家として最初に作ったのはポストカードです。ハンドメイド市に向けて制作しました。日々感じた取るに足らないことをイラストにして描き溜めていた「どうでもいいことノート」というものがあって、そこに描いたイラストを自宅のコピー機でスキャンして作ったんです。
活動を始めて4〜5年目くらいまでは、トートバッグや靴下を買ってきて、手描きで直接イラストを入れるような作り方もしていました。イベント直前になると、イラストを描いた靴下を乾かす場所がなくって、ふとんの半分くらいのスペースを靴下に取られていました(笑)



ーターニングポイントとなったお仕事はありますか?
クリエイターとしてのターニングポイントは、LOFTにグッズを置いていただいたことでしょうか。ナガキパーマとして活動を始めて1年経たないくらいの時期ですかね。イベントでLOFTのバイヤーさんに「渋谷のLOFTに常設でグッズを置きませんか?」とお声がけいただいたんです。そんなことがあるのかって驚きました! ただ、納品で指定される数が50〜100個と、当時の私からするとかなり多かったんです。まだ手描きでグッズを作っている時代だったので、それでまた寝るスペースを靴下に取られて(笑) でも、このことをきっかけに新しいお仕事をいただく機会が増えました。
イラストレーターとしては、メイクアップアーティストのイガリシノブさんがGUとコラボ商品を発売した時に、そのイラストを描かせてもらったことですね。GUの店頭に自分のイラストが入った商品が並んでいるのを見たいと思って、なぜか顔を隠しながらこそこそ見に行きました。絶対顔バレしないのに……。
ー外部から依頼される新しいお仕事をきっかけにファンが増えて、ということを繰り返してきたんですね。お仕事の幅が広がっていく過程で悩むことはありましたか?
もちろんありました。コロナ禍で外出が減ってインプットが少なくなって、「自分ってどんな絵が描きたいんだろう?」って悩みましたね。あとは、ナガキパーマとして求められる絵と、自分が描きたい絵のギャップに苦しんだ時期もありました。ずっと「シュール」と言われる作風を求められていたんですが、その反面、自分はもっとかわいらしさに振ったものや、雑誌に載っていても良いようなシティポップ寄りのイラストなど、「おしゃれでデザインとしても素敵」っていうところに落とし込んでいきたいと思っていて、ジレンマを抱えていました。
ーどんな方法で乗り越えられたのでしょうか?
最終的には「あまり考えすぎない方が良いな!」と思って、とにかくアウトプットし続けることを意識しました。Instagramにもたまに上げている「本日のどうでもよいこと」という日記を描くとか、とにかく手を動かし続けることでモヤモヤすることも減って、だんだん描きたい絵が描けるようになり、作風も固まってきました。

“絶妙さ”の正体は、鋭いバランス感覚
ー制作する上での基本のルーティンはありますか?
イベントに向けて、大体3〜4ヶ月前には何を作るのかを決めています。すでに販売しているグッズの新柄を作るのか、新しいものにチャレンジするのか……。それが決まったら、どのイラストを使うのかを考えます。過去に描いたイラストのストックが溜まっているので、そこから引っ張ってきたり、直近で開催したPOPUPのメインビジュアルから持ってきて組み合わせたりして。ステッカーは描き下ろしイラストで作ることが多いので、特に人気のあった絵柄からほかのグッズを作ることもあります。
例外として「こういうイラストでこのグッズを作りたい!」と決めている時は、イラストをストックから選ぶのではなく、新たに描き下ろしたりもしますよ。基本的には作るもの重視で制作を始め、後からイラストを落とし込んでいます。

ー「何を作るのか」を決める時はどんなことを考えているのでしょうか?
既存商品とのバランスを見て決めています。その時ブースに並ぶ商品に布ものが多かったら紙ものを作ったり、今販売しているはんこが小さめのサイズだったら、大きめサイズのはんこを作ってみたり……。そうやって調整していくことが多いです。


ー商品をデザインする時に意識していることはありますか?
ポーチやノートなど、バッグの中に入るものにはキャラクターの顔のイラストを大胆に使い、外から見えるアパレルアイテムなどは極力普段使いしやすいデザインにしたいと思っています。私自身も、キャラクターの顔が外から見える位置に大きくデザインされたグッズをあまり使わないですね。でも、お客さんは「ナガキパーマさんが描いたキャラクターの顔が入っているから買ってます!」と言ってくれることも多く、オシャレに使いこなしてくださっていたりするととても嬉しいです。アパレルアイテムへのイラストの落とし込み方の良い塩梅がだんだんわかってきた気がします。

ー浮かんだアイデアは何に記録しますか?
今は2つの方法で記録するようにしています。まずは、LINEの自分にしか見えないトークルーム。「本日のどうでもよいこと」のアイデアを文字でメモしています。あとは、イラストで記録するためのラフノートのようなものも使っています。


ーラフノートにはどんな内容が描かれているのでしょうか?
「これをイラストにしたら良いかも!」っていうモチーフを思いつくことが多くて、それを忘れないように記録しています。1つ目のモチーフを決めたあとは、そのモチーフに掛け合わせたらグッとくると思える2つ目のモチーフを探します。ただの「かわいい」で終わるイラストは描きたくなくて、フックというか何か違和感や引っかかりのある絶妙さを描きたいと思っています。
例えば、「紙博 in 東京 vol.12」限定で販売した「ハンガーに吊られている人」というタイトルのアクリルチャーム。あれは人間がハンガーに吊られている状況に赤ちゃん用のツノがついた帽子を掛け合わせることで、絶妙さが生まれたと思っています。これは自分の子どもがツノ帽子をピタッと被ったフォルムが好きで、これを絶対に描きたいと思って採用しました(笑)

ーイラストを制作する中で、最も時間がかかるのはどの工程ですか?
色付けですね。基本的に赤かピンクのどちらか1色は使うように決めていて、赤は“ナガキパーマレッド”と言っても良いくらい、毎回同じ色味の朱色っぽい赤を使うことが多いです。まずは赤かピンクを入れたいポイントを決めてから、組み合わせる色も考えていきます。これがなかなか難しく……色々考えた結果一晩寝かせて、翌朝にもう一度バランスをチェックして慎重に確定させます。配色の決定にはかなり時間をかけているんじゃないでしょうか。

ー「無垢河原浮腫(むくがわらムクミ)」「かぶり生活」「ギャルピする犬」など、人気キャラクターをたくさん生み出されていますが、それぞれどのような経緯で誕生したのでしょうか?

「無垢河原浮腫(むくがわらムクミ)」
おもむろにパツンパツンの白いくまを描いた時に「これは見るからにむくんでいる」と思って……。それで「無垢河原浮腫(むくがわらムクミ)」っていうふざけた名前を付けたのが始まりです。最初はイラストをストーリーにアップしただけだったんですが、それを見てくれた人からムクミに対してかなり良い反応をいただけたので、そこから少しずつキャラクターとしてグッズ化していきました。ナガキパーマ史上初めて名前を持ったキャラクターです。

「かぶり生活」
3年前から事務所に所属し始めたんですが、そのタイミングでマネージャーさんから「キャラクタービジネスとしてやっていけるキャラクターを作ろう」と提案してもらい、そこから生まれたのが「かぶり生活」でした。
「かぶり生活」に出てくるキャラクター達はみんな社会人なんです。たこさんウインナーは商社の営業だし、くまはアパート経営だし、アヒルは「ナガキ美容院」の美容師です(笑) 代々家系で決められたかぶりものをかぶって生きていくとか、背景の設定も細かく決めています。ナガキパーマのグッズに使われているキャラクターのうちの1つとしてではなく、背景設定も含めて「かぶり生活」という名前で多くの人に知ってもらえれば良いなという気持ちで作りました。

「ギャルピする犬」
友人の結婚式のために「動物が何かしらのポーズをしているイラスト」を何種類か描いて欲しいと頼まれたことがありました。ポーズは友人からの指定だったんです。他の動物を主役に何種類か別のポーズも描いたんですが、それをInstagramのストーリーズに載せたらなぜか「ギャルピする犬」だけにたくさんの反応が返ってきて、すごく驚きました。ムクミと同じように、そこからグッズ化していったという流れです。今やナガキパーマのキャラクターの中でダントツの人気を誇っているので、長い付き合いになりそうだなと感じています(笑)
ー人間を描く時、動物を描く時のポイントは?
人間を描く時は、表情に感情を入れないこと、なるべくニュートラルな顔で描くことを意識しています。動物を描く時のポイントは、自分が描ける中で最大の“ゆるさ”を出すことですね。体のラインをはっきりとは描かずに「未確認生命体?」ってくらいの曖昧さを目指しています。
ー「本日のどうでもよいこと」やグッズのタイトルなど、イラストに添えられている文章も印象的ですが、考える時のポイントはありますか?
「このイラストでタイトルにするのそこ?」っていう、イラストの中に詰まった情報を敢えて無視するみたいなことを意識しています。例えば「白菜を持つ女」っていうイラストがあるんですが、派手な全身スーツを着て片手にはぬいぐるみを持っているっていう要素を全て無視して「白菜」だけに注目したタイトルにしました(笑) タイトルの土台ができたら、最後に響きや語呂が良くなるよう細かく調整します。

「続けたかいがあった」紙博への出展
ー紙博に初めて出展された時の感想を教えてください!
手紙社さんは学生時代から大好きで蚤の市やお店にも通っていたので、「手紙社のイベント! 嬉しい! よく分からないけど出る!」と紙博のことを下調べもせずに即答した記憶があります。これまでに経験したことがないような来場者数と熱量のあるイベントで、大人の文化祭のような空気がとても楽しかったことを覚えています。


ー紙博で嬉しかったこと/大変だったことはありますか?
嬉しかったのは、出展するごとに自分のブースを見てくれるお客さんの数が増えていったことです。出展し始めて3回目くらいから、だんだんと待ち列ができるようになって……。もちろん待ち時間なく購入できる方が良いと思うんですが、ブースを見にきてくれる人が増えていくというのは、出展し続けているかいがあるなと思いました。
大変なのは、やはり毎回の事前準備です。回を追うごとにお会計数も商品数も増えているので、それに伴いやることが増えています。どの方も平等に入場料を払って来てくださっているので、最終日の閉場時までできるだけ在庫を切らしたくないんです。なので、いつもかなり多めに在庫を準備するようにしています。ステッカーなどの人気アイテムは数千単位で袋詰めしたりと作業量も莫大です!


ー紙博で作ってみたいもの or やってみたいことはありますか?
今作ろうと企画しているのが、ギャルピする犬を型取った巾着です。Instagramのストーリーで新作の相談をしてみたら実用的な雑貨アイテムのリクエストがとても多かったので、それを意識して考案しました。あとは、「ナガキパーマうさんくさ開運シリーズ」というラインナップがあり、本格的な織のお守りなども作っているので、ブースにうさんくさ開運スポットを作りたいですね。

ー紙博出展時の個人的な必需品はありますか?
サインペンです。待ち列の途中で声をかけて貰ったりもするので、紙博の間はいつでもサインできる用に肌身離さず持ち歩いています。
ーコラボレーションしてみたい紙博出展者はいますか?
HITOTOKIさんと表現社 cozyca productsさんです! HITOTOKIさんはジップカバー付きのノート、表現社さんは定番のブロックメモがすごくかわいいんです。個人的に購入して使っていて、使い勝手も質感も良いので、真摯なものづくりをされているな〜と尊敬しています。
ーところで、Instagramに投稿されている愛犬もうふちゃんとの日常や、素敵なご自宅のお写真にいつも癒されています。ご自身の生活と作家活動の在り方で意識されていることはありますか?
生活と仕事はグラデーションでどこまでも繋がっているので、常に住環境を整えること、マインド面の風通しを良くすることを意識して過ごしています。始業前の朝のルーティンとして、家の中を整えること、目に入るところにお気に入りのものを置くこと、犬と散歩に行くこと、いつもごきげんでいること、たくさんの情報を追わないことなど……。「本日のどうでもよいこと」含め、日常の中での気づきやふと思ったことがイラストの種になることが多いので、生活は大切にしています。

ー最後に、ナガキパーマさんの「おすすめ商品TOP3」を教えてください!

1位:【限定生産】小さいチャーム
今年初の試みとしてイベントやPOPUPに合わせて、各所限定の絵柄で販売しているアクリルチャームです。ちなみに、新規でイラストを描き下ろす時は「普段使わない鮮やかな緑を入れてみよう」とか「苦手な黄味系のカラーをベースに使ってみよう」とか、これまでに描いたものと雰囲気が変わるように新たな挑戦をしています。

2位:「本日のどうでもよいこと」Wポケットクリアファイル
「本日のどうでもよいこと」が4面にたっぷり詰まった、見開きWポケット型のクリアファイルです。しっかりと厚みがある上、マット素材で指紋もつかないのがポイントです。

3位:トートバッグ(「薄手トート『マイラヴァーズ』」、「ドピンクトート」)
東京の紙博では1日半くらいで売り切れてしまった隠れ人気アイテムです! ドピンクトートに入っている英文は「I FIND MYSELF ASLEEP(気づくと寝ている)」で、イラストもそれを表しています(笑)
《インタビューを終えて》
終始にこやかな表情で、笑いも交えつつインタビューに応じてくださったナガキパーマさん。惜しくも記事に入り切らなかった部分では「イラストの制作過程で一番楽しいのは、良いアイデアがでた時! 良いものが作れるぞ〜という気持ちでその日はぐっすり眠れます」とおっしゃっていて、本当に面白いことを考えるのが大好きな方なんだと感動しました。タイトルを考える際の視点の置き方のお話に、ナガキパーマさんのユーモアの真髄が見えた気がしています。
また、紙博出展の心構えを語る瞳はお客さまの姿が見えているように真剣で、応援してくれている方々への思いの深さが感じられました。今年で作家活動12年目を迎えるナガキパーマさんから今後も目が離せません!
(取材・文=手紙社 作田陽/写真=ナガキパーマ)
【ナガキパーマ プロフィール】
東京と仙台を拠点に活動するイラストレーター。ゆるりとした線で描くのは、“どうでもいいこと”。ふわふわで真っ白なワンちゃん、ぽてっとしたクマのぬいぐるみ、ユーモラスな人々などのキャラクターたちは、一度見たら忘れられません! 身近に置いておきたくなるお気に入りが、きっと見つかるはずです。
Website:http://nagakiperm.com
Onlineshop:https://nagakiperm.shop
Instagram:@nagaki_perm
X:@nagakiperm









